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値段さえ安ければ他はどうでも良い、という人はまずいないだろう。
こんな当たり前のことをいうのは、財界・経営者たちが人件費さえ安ければ「国際競争力」が増すかのような宣伝を繰り返しているからだ。
「国際競争力」論が「構造改革」の基本にある。
「国際競争力」を強化するために「構造改革」をおこなう必要があるこれが財界と政府の論理だからである。
そこで本章では、「構造改革」の基本とされている「国際競争力」論を検討する。
結局、彼らの真のねらい(落としどころ)は、これまで以上の大幅賃下げや大規模リストラを労働組合などの抵抗をかわしつつ実現させたい、といったところだろう。
このように「国際競争力」論は、多分に「上げ底」で内容も怪しく、イデオロギー攻撃マインド・コントロール的なところがある。
もしそれが本当なら、日本の賃金を20分の一か、もっと210分の一程度にまで引き下げないと、中国との国際競争に日本企業は勝てない、ということになる。
もしそんな乱暴な賃下げを本当に強行すれば、「熟睡していた労働組合」もみんな飛び起き、日本は「革命前夜的混乱」に陥るだろう。
そのぐらいのことは経営者・財界の諸君も知っているはずで、好んでそのような事態を招くような愚策はとらないだろう。
「国際競争力」を構成する要因は当然ながらいくつもあり、すぐに気がつくのは国内取引と違って一ドル何円かという為替相場の変動が大きく影響する。
ほかにも、技術力・ブランドカ・信用力など企業の競争力を構成する要因は多種多様だろう。
むろん人件費もその重要な構成要因の一つであることを私も否定しない。
国内での企業間の競争力も多くの要因の総合といえるが、「国際競争力」となれば一層複雑でやっかいである。
為替相場の変動のほかにも、関税・税金・地価・資源・地理的条件などさまざまな要因を考慮しなくてはならないだろう。
決して賃金(人件費)だけが国際競争力を決める唯一の要因では(「国際競争に勝てる日本企業の経営革新」)とか、「わが国の国際競争力の劣化は、国の存続にかかわる深刻な事態である。
経済活動のグローバル化は、わが国の高コスト構造を浮き彫りにした」といった主張・宣伝をふりまいている。
さらに、「企業経営にとって最大のコストは人件費である」(同前)から、ということで、その抑制・削減を日本経済の「生き残り」のためにおこなわなくてはならない、と強調している。
その主張の特徴は、第一に、日本の「国際競争力」を決めるのは「人件費だけ」であるかのような主張となっている点だ。
第2に、現状を放置すれば、日本企業そして日本経済がダメになり、結局、労働者・国民も大変なことになるぞ、という「脅しの論理」になっていることである。
第21に、その当然の帰結とばかりに、リストラや賃下げを「正当化」し、これに抵抗する者は「非国民」だといわんばかりの主張になっている。
このような主張をマスコミまで動員して繰り返し聞かされると、一般の労働者・国民はもちろん、労働組合の幹部まで要求実現のためたたかうことに2の足を踏むことになりかねない。
国際競争に勝つには、まず国内の企業間競争に勝たねばならないし、それには企業内の競争・労働者同士の競争を強めなければならないという論理がもっともらしく流布され、いまや「国際競争力」論が雇用破壊・賃金破壊等をねらった最大のイデオロギー攻撃(マインド・コントロール)となっている。
このことを声を大にして訴えたいと思う。
「N新聞」が「日本の競争力」について、大企業経営者を対象に調査をおこなっている。
その結論は、「日本の大企業経営者の8割近くが、技術開発力を中心に国際競争力を高める考えであることが明らかになった」となっている。
続けて、「中国の台頭などに対抗、大競争時代を生き抜くにあたり、技術開発力や知的資産という企業価値の基盤を充実させて難局を突破する決意が浮かび上がってくる」と述べている。
また同調査の「日本が国際競争力を高めるために改革が必要な分野」をみても、「企業の賃金・雇用体系」は第5位にとどまっている。
Tの調査も興味深い(「A新聞」03年1月7日付)。
「経営上の強みは?」という質問には、54%の企業が「信用力」をあげ、以下、「商品・サービスカ」「技術力」「ブランドカ」と続き、「価格競争力」は3%にとどまっている。
さらに「N新聞」が「産業競争力」をめぐる2ページにわたる「特集」を組み、シンポジウム「中部が拓く日本の未来」の内容を紹介している(03年5月8日付)。
その基調講演でM。
では果たして、そのような財界の主張は正しいのか、この点を考えてみたい。
財界人も、さまざまな見解をもっているようなので、そのへんからみていこう。
S社長が「日本企業が国際競争力を強化するには、何よりも独自技術にこだわる決意が必要だが、為替相場も重要。
現在の一ドル120円前後の水準が日本にとって適正なのか。
私は不利が大きすぎると考えている」「購買力平価などからみれば、一ドル160円程度が適正ではないか。
為替にも身の丈に合った水準が必要だ」と述べている。
為替相場が「国際競争力」の大きな要因であることはそのとおりで、同シンポでK・日本特殊陶業会長も「政府には為替相場の安定をお願いしたい」「適正水準はもっと円安との議論もふまえ、政府は為替安定化に努力してほしい」と強調した。
以上、「国際競争力」についての財界・経営者の主張をいくつか紹介した。
ごらんのとおり、同じ財界人であっても彼らの見方・主張には相互にかなり違いがあることに読者も気づかれよう。
日本経団連の場合、「国際競争力」はもっぱら人件費で決まるかのような言い方をしているが、「日本経済新聞」やTの調査では「技術力」・「信用力」などが「国際競争力」の中心になっている。
また、為替相場を重視する財界人もいる。
このような財界人の間の大きな違いをどう考えればよいか。
ここが注意すべき点である。
私は次のように理解している。
春闘などの場面では労働組合の要求をかわすために、日本経団連式の言い方をし、本気で自企業の国際競争力の将来を考えたりする場合には、「技術力」や「信用力」そして「為替相場」など本音が前面に出てくる、ということではないか。
つまり、日本経団連式の言い方は、リストラや賃下げを「正当化」するための口実・イデオロギー攻撃である、という側面が濃厚だと私は思う。
むろん人件費も「国際競争力」に影響する大きな要因ではあるが、それだけが、あるいはそれが「国際競争力」を決める最大の要因ということでは決してない。
右に紹介したいくつかの調査・記述の表面だけをみれば、財界内部で「混乱している」、本章の最初でもちょっとふれたが、第1図で「国際競争力」論そのもののいいかげんさ・非科学性をここでみておこう。
日本経団連は、すでにみたように「国際競争力」の決定的要因を賃金・人件費に求めている。
第1図によると、日本の「国際競争力ランキング」は94年から下がりはじめる。
ということは、日本経団連の主張にしたがえば、94年以降日本の賃金が急上昇したことになる。
ところが、日本の賃金の推移をみれば、名目賃金と実質賃金のいずれにおいても、大きな変化はない。
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